ステンレス鋼とは耐食性を向上させる目的で、Cr又はCrとNiを含有させた合金鋼であり、一般にはCr含有量が約11%以上の鋼である。
ステンレスは組成上から、マルテンサイト系・フェライト系・オーステナイト系の3種に分類され、この内プレス加工に広く使用されているのは、SUS430に代表されるフェライト系とSUS304に代表されるオーステナイト系の2種類となる。
普通鋼板より高価な材料であるが、耐食性が高く、表面が美麗であることから、耐久性や意匠性が求められる用途において重宝されている。

なお、ステンレス鋼は高強度に加えて熱伝導率が低く、熱膨張係数が高いために焼付きや型カジリを起こしやすいため、特に深絞り等の負荷が高い加工では、耐型カジリ性に優れた金型材質の選定や、油膜強度が高く冷却性能に優れた潤滑油の選定が重要になる。

①フェライト系ステンレス鋼の特性

  • フェライト系ステンレス鋼は17%CrのSUS430が基本の鋼種で、体心立方格子構造を持ち強磁性である
  • 機械的性質は普通鋼板に類似しているが、オーステナイト系ステンレス鋼に比べ全伸びが低く張出し性に劣る
フェライト系ステンレス鋼の主要鋼種
SUS410 SUS430より耐食性が劣るが、低Cかつ低Crのため成形性に優れることから、自動車排気系部品などに使用される。
SUS430 フェライト系ステンレス鋼を代表する17Cr鋼で、張出し性はSUS304に劣るものの、円筒深絞り性は同等で価格は割安。

②オーステナイト系ステンレス鋼の特徴

  • オーステナイト系ステンレス鋼は18%Cr-8%NiのSUS304が基本の鋼種で、面心立方格子構造を持ち非磁性である
  • 常温での加工によりマルテンサイト相に変態し著しく加工硬化するが、大きな均一伸びを示すため張出し性は良い
オーステナイト系ステンレス鋼の主要鋼種
SUS301 加工誘起マルテンサイト変態を最大限利用するために、SUS304よりNi量を低くしC量を増加した鋼材で張出し性に優れるが、時効割れが比較的発生しやすい性質であることから、過酷な絞り加工には適さない。
SUS304 プレス加工用ステンレス鋼の基本となる鋼種で、深絞り性・張出し性・伸び性がいずれも良好なため、幅広い用途に使用される。但し、普通鋼に比べて加工硬化が大きく、また高強度材であることからスプリングバックが大きいため、寸法精度を出しにくいのが欠点。

ステンレス鋼板の絞り加工事例

SUS305の薄板を使用する絞り加工品ですが、板厚が薄い上に素材が持つ異方性が高いことから、円筒形状に歪みが生じやすいため、絞り径の寸法精度を維持するのが非常に難しい製品です。また、ステンレスは加工硬化しやすく工程が増えるほど硬くなるため、金型材質の選定も重要です。

材質:SUS305、板厚:t=0.25
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